唯一帰結の彼岸神話学 -OHIGAN mythology-

作詞・作曲・アレンジ:FMIC7743/渦音P
ボーカル:H-∩-P[Haunted-United-Procedure] 渦音ヒト & 歌手音ピコ
ゆいいつきけつのひがんしんわがく。
物語のジャンルは胡乱怪奇神話系田舎伝奇。曲のジャンルは演説+歌謡ロックというかそのへんです。
「青年と少女、伝道師とかみさま。夏の夕暮れは彼岸あちらがわ此岸こちらがわの境が曖昧になります。」 これの元になった曲が「OHIGAN mythology」なんですが曲の構成がだいぶ変わってますね。夏概念をキメて歌詞を書いてるうちに日本語タイトルのほうがしっくり来るかなーと思ったので大雑把に変更しました。
夏概念といえば数年前につくった「Lycoris」という曲があり、これもついでとばかりに融合しました。 ボーカルにピコやんがいるのはそういうつながりです。

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歌詞

「これよりお話致しますは旧い昔話でございます。さあさあ皆様お手を拝借。」

忘れられた神話ものがたり、たとえ誰も信じてくれなくても
筆を執れ、新たなる奇譚ものがたりを綴れ

夕暮れの畦道に咲き誇る彼岸花
くうを舞うかげろうは夕凪に消えてゆく

錆びついた因習しきたりに縋り付く獣たち
偽りの神託を諳んじる風見鶏

迷い子の宿願は為されることはなく
善き人の盲信は彼岸への道を為す

改竄かきかえられた年譜ものがたり、それは歪なる教典
書き刻め、新たなる奇譚ものがたりを此処に

狂信の只中において正善せいぜんは妄言となる
善き人の信心は信仰の形を為す

「それはお前達がいかに目を逸らせどもまた塗り潰せども人々と共に、常にそこに在る」
「物語はあなたたちの頭の中に。かみさまはあなたたちの心の中に。」
「それはお前達の手に負えるものではなく救うこともましてや滅することもしない」
「それらはみな全て人の認識の中に。」
「そして」
「それを否定するものはそれに否定される。」

客人まろうど誡告かいこくは聞き届けられることはなく
善き人の祝福は災厄の形を為す

刻まれたものがたり、現実など些細なこと。
語り継げ、新たなる奇譚ものがたりは此処に

「さあさあ皆様ご破産で、願いましては夢の跡。」
「天網恢恢。すなわち全て御天道様がみてますよ。」

登場人物紹介

「青年」「伝道師」:少女と共に旅をする、年齢不詳で派手なシャツの上に籠目柄の羽織を纏った……胡散臭さが極まった黒髪ロングの男。
「少女」「かみさま」:青年と共に旅をする、金髪紫目でロリータ服の娘。無口無表情。かみさまというか概念存在に近い。
巫女服の娘:中学生。村で生まれ育った神社の一人娘。夏祭りで奉納演舞を披露する役目を担っていた。田舎暮らしに辟易しており全寮制高校に進みたいと思っているが、母親は猛反対していた。

H-∩-P:Haunted-United-Procedure。物語の本筋にはまっっったく絡みませんが、渦音さんとピコやんのユニットです。この世ならざるものたちは然るべき手続きを経て連合となる。実際のところバクロニムなんですが。

テキストログ

父と、親戚と、村のおじいさんたちが集まって夏祭りの話し合いをしている。
わたしも何故かそこに参加させられてるけど、ただ部屋のすみっこで座っているだけ。
「子供にはわからない難しい話」に、子供わたしが口を出すことは許されていない。
出ていこうとしても「ちゃんと話を聞こうね」と引き戻される。
大人たちが勝手に話し合っているだけなので、話の内容もまるで頭に入ってこない。

あんまり退屈だったので、夕方に出会った不思議な観光客のことを考えていた。
この辺ではほとんど見かけない、派手な服の男の人と女の子が田んぼのど真ん中にいたから、驚いてついつい声をかけてしまった。
道に迷っているというから地図を見せてもらったら、うちの神社に行くつもりだというから案内をすることにした。
二人は親子で、男の人は作家だと言っていた。日本中を旅しながら色々な神社やお寺を巡って、小説?を書いているらしい。
その人は「神社に限らず、様々なものを見聞きすることそのものが楽しい」とも言っていた。
わたしはこの村を出たことがないからまったく想像がつかないけれど、色々な場所に行くことができるのはきっと楽しいだろうなと思った。

気がついたら話し合いはすっかり終わっていた。
村の人たちがぞろぞろ帰って行くのと入れ替わりで、母が古そうな紙箱を持って入ってきた。
中に入っていたのは、マンガとかでよく見る赤い袴と白い着物だった。
巫女の格好をして、お囃子みたいなのに合わせて踊る。それが、今年の夏祭りでわたしに課せられた役目だった。

祭りで披露されていた演舞。その実体は本来生贄の儀だったとされている。
荒ぶる神を鎮めるために贄を捧げる。その儀式もまた、長い年月を経て意味が忘れられ、夏の風物詩のひとつとして溶け込んでいったのだろう。

■■神社と、祭りと、それにまつわる様々な記録。それを読み解くうちに、あることに気がついた。

数え15の女子が、■月■日に、炎に囲まれた台座へ上る。
ここで記されている日付は旧暦である。新暦に直すと、■月■日。
即ち、祭りの日であった。

ステージイベントが進行し、巫女装束の少女が現れる。神社の一人娘だという、先日たまたま出会って道案内を買って出た娘だ。
少女が櫓の上に立つ。刹那、視界が反転する。

―贄とされた者がどうなったのかまでは記録が残っていなかった。
あらゆる偶然が重なり、結果が目の前に顕れた。

「なるほど、神に捧げられた者は贄……依代となるのですね。しかし、これではまるで。」

顕現せしは祀られし神。赤黒い炎を纏った泥のようなもの。
ここの神は火の神だと記録されていた。なるほど確かに。
あるものは呆然とし、またあるものは逃げ惑う見物客達を飲み込んで"それ"がのたうち回る。

傍らでその様子を視ていた少女――我らが"かみさま"――が、"それ"を指差し、何かを呟く。
「ええ、そうですね。一先ずは鎮めましょう。村が火の海になる前に。」