父と、親戚と、村のおじいさんたちが集まって夏祭りの話し合いをしている。
わたしも何故かそこに参加させられてるけど、ただ部屋のすみっこで座っているだけ。
「子供にはわからない難しい話」に、
出ていこうとしても「ちゃんと話を聞こうね」と引き戻される。
大人たちが勝手に話し合っているだけなので、話の内容もまるで頭に入ってこない。
あんまり退屈だったので、夕方に出会った不思議な観光客のことを考えていた。
この辺ではほとんど見かけない、派手な服の男の人と女の子が田んぼのど真ん中にいたから、驚いてついつい声をかけてしまった。
道に迷っているというから地図を見せてもらったら、うちの神社に行くつもりだというから案内をすることにした。
二人は親子で、男の人は作家だと言っていた。日本中を旅しながら色々な神社やお寺を巡って、小説?を書いているらしい。
その人は「神社に限らず、様々なものを見聞きすることそのものが楽しい」とも言っていた。
わたしはこの村を出たことがないからまったく想像がつかないけれど、色々な場所に行くことができるのはきっと楽しいだろうなと思った。
気がついたら話し合いはすっかり終わっていた。
村の人たちがぞろぞろ帰って行くのと入れ替わりで、母が古そうな紙箱を持って入ってきた。
中に入っていたのは、マンガとかでよく見る赤い袴と白い着物だった。
巫女の格好をして、お囃子みたいなのに合わせて踊る。それが、今年の夏祭りでわたしに課せられた役目だった。
祭りで披露されていた演舞。その実体は本来生贄の儀だったとされている。
荒ぶる神を鎮めるために贄を捧げる。その儀式もまた、長い年月を経て意味が忘れられ、夏の風物詩のひとつとして溶け込んでいったのだろう。
■■神社と、祭りと、それにまつわる様々な記録。それを読み解くうちに、あることに気がついた。
数え15の女子が、■月■日に、炎に囲まれた台座へ上る。
ここで記されている日付は旧暦である。新暦に直すと、■月■日。
即ち、祭りの日であった。
ステージイベントが進行し、巫女装束の少女が現れる。神社の一人娘だという、先日たまたま出会って道案内を買って出た娘だ。
少女が櫓の上に立つ。刹那、視界が反転する。
―贄とされた者がどうなったのかまでは記録が残っていなかった。
あらゆる偶然が重なり、結果が目の前に顕れた。
「なるほど、神に捧げられた者は贄……依代となるのですね。しかし、これではまるで。」
顕現せしは祀られし神。赤黒い炎を纏った泥のようなもの。
ここの神は火の神だと記録されていた。なるほど確かに。
あるものは呆然とし、またあるものは逃げ惑う見物客達を飲み込んで"それ"がのたうち回る。
傍らでその様子を視ていた少女――我らが"かみさま"――が、"それ"を指差し、何かを呟く。
「ええ、そうですね。一先ずは鎮めましょう。村が火の海になる前に。」